双極性障害と障害年金 – 申請からの完全ガイド
双極性障害とは
「双極性障害」は、気分が極端に高揚する躁状態と、極度の抑うつ状態が交互に現れる精神疾患です。一般的には、気分の波が極端に高まり、活動的で冒険心が増す躁状態と、無気力で憂鬱な抑うつ状態が交互にやって来ます。この病気は、個々の症状や病程には個人差がありますが、適切な治療を受けない場合、生活に支障をきたすことがあります。
ご相談いただいた中では、深夜の時間帯にもかかわらず、知り合いの方に何回もお電話をかけてしまうといったことも、お聞きしております。
「双極性障害」は、その特性上、職場や日常生活において様々な問題を引き起こす可能性があります。例えば、気分の急激な変化や極端な行動は、仕事や人間関係に影響を与えることがあります。
また、躁状態の時の高揚感が忘れられず、薬を飲むのを辞めてしまったり、その反動のためか抑うつ状態の間は、通常の生活動作を行うことが困難になることもあります。そのため、「双極性障害」を持つ人々が社会で十分な支援を受けられることが重要です。
ここでは、「双極性障害」で障害年金が受給するためのポイントや注意点等について解説します。
障害年金とは?
障害年金とは、けがや病気などで体や心が「障害の状態」になってしまったときに受給できる公的年金です。
この「障害の状態」とは、目や耳、手足の不自由などの障害だけでなく、がんや糖尿病、心臓、肺などの内臓関係の病気、うつ病などの心の病気により、長い間にわたって療養が必要で仕事ができない、又は仕事をしてもフルタイムの勤務ができない、及び普段の生活においても人の助けが必要になるような状態を指します。
もちろん「双極性障害」も対象傷病の一つです。
「双極性障害」の障害認定基準は以下の通りです。
等級 | 障害認定基準の規定 | 簡単に言うと…? |
1級 | 高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の症状があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の援助が必要なもの | 行動範囲が自室のみなど、身の回りのことがほとんどできない状態 |
2級 | 気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の症状があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの | 日常生活が著しい制限を受ける状態・労働能力がない状態 |
3級 | 高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の症状があり、その症状は著しくないが、これが持続又は繰り返し、労働が制限を受けるもの | 日常生活のことは概ねできるが労働が制限を受ける状態(以前と違い軽い労働しかできなくなるなど) |
「双極性障害」の障害認定は、日常生活にどのくらい影響が出ているかがポイントになります。
※障害基礎年金に加入している方は1~2級の障害等級に該当する必要があります。
精神障害者福祉手帳について
また障害年金の請求をサポートする中で「精神障害者福祉手帳をもっていないのですが…障害年金はもらえないのでしょうか?」というご相談をいただくことがあります。
障害年金制度と精神障害者福祉手帳の制度は全く別のものですので、手帳を持っていなかったとしても要件を満たしていれば請求が可能です。他にも、精神障害者福祉手帳3級だった方が障害年金2級を受給したといった事例もあります。
双極性障害における受給要件
「双極性障害」で障害年金を受給するための要件は以下の3つです。
初診日・認定日要件
初診日とは「障害年金を請求する傷病で症状が出て初めて病院等の医療機関で受診した日」を指します。
ここでは「双極性障害」の症状が出始めてから最初に病院にかかった日となります。この時、不眠、食欲不振、頭痛といった初期症状で病院にかかり、その際に「双極性障害」と診断されなかったとしても後から因果関係が認められれば初期症状の際に病院にかかった日が「初診日」となります。
そしてこの初診日から原則1年6か月が経過した日が「障害認定日」とされ、この認定日を迎えないと障害年金を請求できません。
「双極性障害」の症状があり病院にかかっていない場合は速やかに病院等で受診することをお勧めします。
一方で初診日から1年6か月以上経過している場合は障害年金の請求ができます。
しかし、認定日を迎えてから5年以上経ってしまった場合は過去5年を超える分の障害年金の権利が時効によりなくなってしまいます。
請求から受給までには早くて6か月、請求が遅れればさらに半年、1年とかかってしまう場合がありますので認定日を迎えた場合は早めに請求を行う方が良いでしょう。
保険料納付要件
障害年金を請求する際には一定期間保険料を納めていることが必要です。
初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの被保険者期間について、保険料納付済期間・保険料免除期間が合わせて3分の2以上あることが保険料納付要件の原則です。
しかし、特例として保険料納付要件は基準日の属する月の前々月から遡って1年間、年金の未納がなければ要件を満たしています。
保険料をきちんと納付しているかは年金事務所や市町村役場に問い合わせることで確認ができます。
障害状態要件
障害年金を貰うためには障害認定日以降において、一定の障害の状態にあることが必要です。
そこで「双極性障害」の障害状態把握に重要となるのが「日常生活能力の判定」です。
以下の表を
〇できる:1点
〇おおむね(自発的に)できるが時には助言や指導を必要とする:2点
〇(自発的かつ適正に行うことはできないが)助言や指導があればできる:3点
〇助言や指導をしてもできない若しくは行わない:4点
としてチェックし7項目の平均点(7項目の点数の合計 ÷ 7)を計算します。
あくまで目安にはなりますが、この時の平均点を下の表に当てはめて受給が可能か否かを判断します。
障害等級判定の流れ
障害年金を受給するまでの大まかな流れは以下の通りです。
医師に診断書を依頼
医師に診断書を書いてもらうよう依頼をします。
診断書を依頼する際には日常生活能力の内容と自覚症状を医師に伝えることが大切です。
必要書類を提出
年金事務所に医師の診断書とともに必要書類を提出します。
双極性障害における障害年金請求(申請)の注意点
書類の内容に注意
障害年金の書類の中には発症から今までの病歴を記述するものがあります。この書類と診断書をもとに日本年金機構が障害年金の支給・不支給を決定するのです。
この時、書類・診断書ともに記載内容に注意が必要です。
それは「できないことを書くこと」と「診断書の内容を確認すること」です。
障害年金の支給・不支給の決定は対面で障害をお持ちの方を見て審査するのではなくこの書類で間接的に行われます。この時「できること」を書いてしまうと障害の状態が軽いとみなされて不支給となってしまうことがあります。
また、「診断書」は病院での様子を見て医師が作成します。しかしながら、病院で受診している時は調子のよい時が多いのではないでしょうか。
そうすると調子のよい時ばかりが診断書に反映されてしまい、普段の生活の中で調子の悪い時の様子が反映されず、結果不支給になってしまうことがあります。
なので、常日頃から調子の悪い時の様子を医師に正直に伝えること,自分の障害の状態が正しく反映されているかを確認することが重要です。
審査請求、再審査請求
障害年金は最初の請求が認められなかった場合、審査請求や再審査請求といった形で改めて請求を出すことができます。しかしながら、最初の請求が覆るケースは極めてまれです。
しっかりと必要書類等の準備をしてから初めての請求を行いましょう。
まとめ:障害年金は双極性障害の障害の重さだけでなく、生活状況も重要
ここまで「双極性障害」についての説明をさせていただきました。すべての障害について言えることですが、要件や書類など形式的な準備はもちろん重要です。しかし、何よりも大切なものは障害の状態や生活状況や働く上でどのくらいの会社側の配慮を受けているのかなどを正確に書類に反映することです。
審査官は対面で障害の状態を判断するのではなく、書類で判断します。特に「双極性障害」にかかっている方であれば障害の状態だけでなくその生活状況なども加味して判断がなされることがあります。
最初の請求が非常に重要となりますので、不安であれば一度障害年金専門の社会保険労務士に相談することをお勧めします。