14.心疾患による障害認定基準

【認定基準】
呼吸困難、心悸充進、尿量減少などの症状や検査結果を総合的に評価し、日常生活や労働にどの程度影響を与えるかで1級、2級、3級に分類します。心疾患の範囲は、心臓だけでなく血管を含む循環器疾患全般が対象です。慢性心不全の評価は、心臓機能の慢性的な障害を評価し、左心室系と右心室系の障害を考慮します。主要症状と検査: 胸痛、動悸、呼吸困難などの症状と、心電図や心エコー図などの検査結果を基に評価します。

 

心疾患の検査での異常検査所見を一部示すと、次のとおりである。

区分 異常検査所見
A 安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの
B 負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
C 胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの
D 心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの
E 心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの
F 左室駆出率(EF)40%以下のもの
G BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml相当を超えるもの
H 重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの
I 心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの

 

【認定要領の要点】

心疾患による障害は、次のように区分がされます。

  1. 弁疾患
  2. 心筋疾患
  3. 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
  4. 難治性不整脈
  5. 大動脈疾患
  6. 先天性心疾患
  • 心疾患の障害等級の認定は、最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を評価することである。心疾患の主要症状としては、胸痛、動悸、呼吸困難、失神等の自覚症状、浮腫、チアノーゼ等の他覚所見がある。
  • 検査成績としては、血液検査(BNP値)、心電図、心エコー図、胸部X線、X線CT、MRI等、核医学検査、循環動態検査、心カテーテル検査(心カテーテル法、心血管造影法、冠動脈造影法等)等がある。
  • 肺血栓塞栓症、肺動脈性肺高血圧症は、心疾患による障害として認定する。
  • 心血管疾患が重複している場合には、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度を十分考慮して総合的に認定する。

 

一般状態区分表(心疾患による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりである)

区分 一般状態
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの  例えば、軽い家事、事務など
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

(参考)上記区分を身体活動能力にあてはめると概ね次のとおりとなる。

区分 身体活動能力
6 Mets 以上
4 Mets 以上6 Mets 未満
3 Mets 以上4 Mets 未満
2 Mets 以上3 Mets 未満
2 Mets 未満

(注)Metsとは、代謝当量をいい、安静時の酸素摂取量(3.5m1/kg体重/分)を1Metsとして活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すものである。

 

1.弁疾患

障害の程度 障害の状態
1級 病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスIV)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級 1.人工弁を装着術後、6ケ月以上経過しているが、なお病状をあわらす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2.異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級 1.人工弁を装着したもの 2.異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注1)複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則3級相当とする。

(注2)抗凝固薬使用による出血傾向については、重度のものを除き認定の対象とはしない。

 

2.心筋疾患

障害の程度 障害の状態
1級 病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級 1.異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2.異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級 1.EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のィ又はウに該当するもの 2.異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注)肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左室流出路狭窄に伴う左室流出路圧較差などが病態の基本となっている。したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心臓エコー検査所見なども参考として総合的に障害等級を判断する。

 

3.虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)

障害の程度

障害の状態

1級

病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの

2級

異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの

3級

異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注)冠動脈疾患とは、主要冠動脈に少なくとも1ケ所の有意狭窄をもつ。あるいは、冠攣縮が証明されたものを言い、冠動脈造影が施行されていなくとも心電図、心エコー図、核医学検査等で明らかに冠動脈疾患と考えられるものも含む。

 

4.難治性不整脈

障害の程度 障害の状態
1級 病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級 1.異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2.異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級 1.ペースメーカー、ICDを装着したもの 2.異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(1)難治性不整脈:適切な治療を受けても改善しない不整脈で、放置すると心不全や突然死のリスクが高い。

(2)心房細動:加齢とともに増加する不整脈。単独では認定対象外だが、心不全を伴う場合やペースメーカーが必要な場合は認定対象となる。

 

 

5.大動脈疾患

障害の程度 障害の状態
3級 1 胸部大動脈解離(Stanford分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの 2 胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの

(1) Stanford分類
A型: 上行大動脈に解離がある。
B型: 上行大動脈まで解離が及んでいない。

(2) 大動脈瘤
大動脈の一部が拡張した状態。原因は先天性疾患、動脈硬化、膠原病など。認定対象は、原疾患の活動性や手術の合併症がある場合。

(3) 胸部大動脈瘤は、胸腹部大動脈瘤も含む。

(4) 難治性高血圧は、生活習慣の修正と3種類以上の降圧薬を使用しても、血圧が高い状態が続く。

(5) 大動脈疾患は、心不全を呈することは少ないが、完全治癒は難しい。合併症や手術の後遺症によっては上位等級に認定されることがある。

(6)大動脈瘤の定義

  • 嚢状: 大きさを問わず。
  • 紡錘状: 正常時の1.5倍以上(2倍以上は手術が必要)。
  • 人工血管にはステントグラフトも含まれる。

 

6.先天性心疾患

障害の程度 障害の状態
1級 病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能病状分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級 1.異常検査所見が2つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2.Eisenmenger化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級 1.異常検査所見のC、D、Eのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの 1.肺体血流比1.5以上の左右短絡、平均肺動脈収縮期圧50mmHg以上のもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

 

A.重症心不全
心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は、次のとおりとする。ただし、術後は次の障害等級に認定するが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定する。
・心臓移植 1級
・人工心臓 1級
・CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)2級

 

B.心臓ペースメーカー、又はICD(植込み型除細動器)、又は人工弁を装着した場合の障害の程度を認定すべき日は、それらを装着した日(初診日から起算して1年6月を超える場合を除く。)とする。

 

各疾患によって、用いられる検査が異なっており、また、特殊検査も多いため、診断書上に適切に症状をあらわしていると思われる検査成績が記載されているときは、その検査成績も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定する。

 

この要約が役立つことを願っています。他に質問があれば教えてください。

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